

協力=松本青山、増本幸恵 写真=板野賢治 文=編集部
『うかたま』79号(2025年夏号)掲載

B5判 144頁
定価 3,960円 (税込)
鯨肉ならではの特徴
鯨肉は他の肉と比べて、肉汁(ドリップ)が非常に多いことが特徴だ。家畜の肉やジビエは屠殺の際に血抜きをするが、鯨は捕獲直後に十分な血抜きができないので、血液や水分が肉に残る。とくに冷凍肉を急速に解凍すると、凍結していた血液や水分が大量に溶け出て、パサパサの肉になってしまうという。
また、遠洋での捕鯨で捕獲され母船で解体・加工される鯨肉は、死後硬直が始まる前に冷凍される。こうして冷凍された鯨は、解凍後に死後硬直が始まる。そのため冷凍鯨肉を急速に解凍すると、肉が硬直しているため、どう加熱してもかたいままになるそうだ。
「鯨肉を食べたことがある人に話を聞くと、〝すごくかたかった〟という人と〝やわらかかった〟という人がいます。不思議ですよね。かたかったのはおそらく、冷凍肉の解凍方法が適切でなかったからでしょう」。松本さんによると、冷凍鯨肉を調理する場合は、マイナス1~0°Cで2~3日かけて解凍するのがベスト。ゆっくり解凍することで、解凍中に死後硬直が解除され、肉の軟化が進む。さらに不要なドリップの流出も防げるという。
なぜ鯨肉を食べるのか
こんなにたくさん食べるものがある世の中で、わざわざ鯨を食べる必要があるのかと考える人もいるかもしれない。ただ、牛や豚の肉を食べるずっと前から、日本人が鯨を食べてきたことも事実だ。海の中で一番大きい生物である鯨だけを保護することで、鯨が食べるカタクチイワシやサンマ、サケなどの数が減り、海洋生態系全体のバランスが崩れることも懸念されている。
鯨肉は日本列島で暮らす人々の命をつないできた食材の一つ。手に取って、まずは「焼肉」から始めてみるのはどうだろう。
鯨肉の焼肉

鯨肉のワイルドなおいしさを堪能できます。
焼肉といえば甘辛いタレが一般的ですが、京都で好まれてきた大根おろし+醤油の食べ方です。(『鯨肉料理』(農文協)p50より)

〈材料〉2人分
鯨肉(背肉。5mm厚さの薄切り)…200g
長ねぎ…1本
椎茸…1個
粉山椒…適量
おろし醤油
大根おろし…10cm分
濃口醤油…適量
〈つくり方〉
- 長ねぎは細長くたすきに切る。椎茸は1cm厚さに切る。
- 1と鯨肉を器に盛り、鯨肉に粉山椒をふんだんにふる。
- 鍋を熱し、油(分量外)をなじませ、1、2を焼き、おろし醤油でいただく。
料理のポイント
●焼いたそばから水分が出てくる鯨肉の焼肉は、水分を逃すことができるジンギスカン鍋が最適。それ以外であれば、出てきた水分をキッチンペーパーでふき取りながら焼く。
●鯨肉の獣臭をおいしさに変えてくれるのが大根おろし。水気を軽くしぼり、醤油を添えて。
●粉山椒は仕上げにふるのではなく、焼く前にたっぷりまぶす。肉を焼いている時に脂が出て、その脂に山椒の香りを移し、獣臭を消すため。
「いま、知りたい 鯨肉のこと」(前編)は、鯨肉の歴史についてです。
ぼくたちのこと、知ってる?
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