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vol.1 表紙 2006 vol.1 冬

『現代農業』1月増刊
2005年12月5日発売
定価802円(税込)

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雪舟山荘のうずめめし

島根県の西南部に位置する益田市匹見町は1000m級の山々に囲まれた山間の郷。
巨大な天然杉、トチ、ブナが茂る森など、豊かな自然が清流を生み、四季折々の山菜などの山の幸や、ヤマメやゴギなどの川の幸を育む。
きれいで冷たい水が流れる山麓で栽培される香り高いわさびが、山峡・匹見ならではのもてなし料理・うずめ飯の味を決める。

写真=富井昌弘 文=おおいまちこ

うずめめし写真01

特産のわさびを使った伝統食「うずめ飯」

 秘境のムード漂う匹見峡や、巨大な天然杉やトチ、ブナなどの広葉樹がうっそうと茂る森など、美しい自然景観に恵まれた島根県益田市匹見町の萩原という集落に、地元の6人のおばあちゃんが切り盛りしている農家民宿「雪舟山荘(せっしゅうさんそう)」がある。
 「無理せず楽しくおもてなし」がモットー。だから、農繁期やお盆、正月など、自分たちが忙しい時期にはお客さんを受けない。宴会客もお断り。こんな具合にマイペースで運営しているので、周囲からは「わがままなおばあちゃんの宿」の愛称で親しまれている名物宿である。

うずめめし写真02

「自然の好きな人に来てもらいたい」と、「萩の会・民宿部会」の皆さん。左から森久江さん、砂川初代さん、ソノさん、西岡和子さん。1人のお客さんを4人で接待することもある

 基本的に「匹見の山や川、畑で採れた食材しか使わない」というおばあちゃんたちの手づくり料理が評判だ。猪のブルーベリー煮、ヤマメの朴葉焼き、そば豆腐、ヨモギの団子汁……天ぷらにするための山野草は、お客さんがみえる数時間前に宿の周りや裏山に摘みに行き、きれいに竹カゴに盛り、食事の際に目の前で揚げてくれる。
 「お金はかかってないけれど、一品一品手間ひまかけて調理しています」
 と、宿を運営する「萩の会」の代表斉藤ソノさん(80歳)は言う。
 地域の伝統食を大切にしている雪舟山荘では、島根県の西部・石見地方に伝わる郷土料理「うずめ飯」をいただくこともできる。
 この料理、ぱっと見、丼に白いごはんがよそってあるだけのように見えるのだが、お箸でごはん粒をかきわけると、鶏肉や里芋、ごぼう、にんじん、なめこなどが煮汁とともにごはんの下に“うずまっている”。
 味の決め手は、具の上にたっぷりと乗った特産のわさびだ。ごはんと具と、おろしたてのわさびをよくかき混ぜて食べると、素朴な味わいに、つーんとしたわさびの辛味がきいて、これがなかなかいける。昔は法事や祭り、正月など、お客さんがみえた時のごちそうとして食されたそうだ。ソノさんが、こんな話を聞かせてくれた。

うずめめし写真03

わさびは葉の根元のほうから、のの字を描くようにゆっくりとおろすのが、風味や辛味をひきだすポイント

 「『うずめ飯』の由来は、3つの説があるんですよ。昔、わさびは少し町へ持っていけば、ひと月は生活できるほど、いい収入源になったそうです。高価なわさびをごはんの上に乗せて出すと、外からおいでになったお客さんが遠慮してしまうから、ごはんの下に隠したという説。また、粗末な野菜ばかりで恥ずかしいから、ごはんで隠して伏目がちに差し出したという説。もうひとつが、昔は山鳥の肉などをたんぱく源にしていたようですが、生類憐れみの令が出された元禄の頃、おとがめを受けるといけないので隠すようになったという説です。もちろん私たちは、特産のわさびを遠慮せずに食べていただきたいという思いから始まったものだと信じてますよ」

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