畑を耕すように生地をこね、作物を育てるように酵母を育て、
その土地に根ざした素材でパンを焼く。
まるで、農家のようなパン屋さん。
それが、ルヴァン信州上田店。
写真:武藤奈緒美
中央が甲田幹夫さん。ルヴァン信州上田店のスタッフとともに
地粉から生まれる力強いルヴァンのパン
溶岩窯から取り出されたパン。いい香りが店内に漂よう |
おいしくて体によいパン。食べものとしてごく当たり前だが、ルヴァンのパンはそういうパンだ。
ルヴァンで使うのは、長野市の製粉会社から取り寄せる中力タイプの国産小麦の粉、いわゆる地粉。ルヴァンに勤めて10年になる饗場(あいば)あいさんは「国産小麦は生地がつながる力は弱いです。だから、やさしくやさしく扱います。味は輸入の粉とは全然違いますよ。かみごたえがあるがっちりした生地になって小麦本来のおいしさがわかる」という。
そんなおいしい地粉と天然酵母が出会って、美しくて力強いルヴァンのパンができあがる。
店主である甲田幹夫さんがパン屋を始めた1980年頃は、たんぱく質の量が少ない国産の小麦ではまともなパンは焼けないのが常識という時代だった。でも、甲田さんが思い描いていたのは、自分が暮らす土地で採れたものを食べるという"身土不二"のパンづくり。つくった人の顔がわかる安心な素材を使い、酵母を育てて焼くおいしくて体にいい、毎日食べても飽きないご飯のようなパン。だから、とうてい無理といわれた国産小麦のパンづくりも彼には自然なことだった。
その土地の食材を使い、地元で売るパン屋を目指して
「パン屋っていうのは、もともと地域に根ざしたもの。お客さんの顔を見て売るのが本来のパン屋のあり方」と甲田さんは考える。
賞味期限の表示なんて必要がない。大事に焼いたパンを最後までおいしく食べ切ってもらうための保存の仕方や食べ方は、お客さんと顔を会わせてこそ伝えられる。
そんな甲田さんは2004年に故郷、長野県上田市にルヴァン信州上田店を開店した。
「今日のアンズパイは、近所のお客様からのいただきもののアンズでつくりました。セミドライにしてからシロップに漬けるんです」とスタッフの金子圭子さん。
カンパーニュはルヴァンの定番。スタッフも大好きなパン |
甘酸っぱいアンズパイは、アンズが出回る初夏の季節だけのものだ。このようなパンの具やフィリングは、従業員の実家から送ってもらった野菜を使ったり、地元の農家から分けてもらったりすることが多い。
併設されたレストラン「ルヴァンターブル」では、パンといっしょに、地元の新鮮な野菜をたっぷり使ったスープやパスタなどもいただける。