お米の値段って、どう決まるの?|食べるんだから知っときたい

「食べるんだから知っときたい」は、食べることに関連して「聞いたことはあるけれど、よくわかっていないこと」や「とても身近な問題なのに、ふだんは意識していないこと」について、専門家の方にわかりやすく解説していただく連載です。

「うかたま」81号(2026年冬号)掲載

Q. お米の値段が、なんだかんだで高いままですね。
キャベツや玉ねぎなどの野菜は、天候が原因でよく値段が上下しますが、お米は主食だし、急に高くなったり安くなったりしないものと思っていました。
国は米を増産するとか、しないとか言っていますが、そもそもお米の値段は、どのように決められているのでしょうか?

答える人=たに りり

食卓の視点からお米を取材・研究する農政ジャーナリスト。日本炊飯協会認定ごはんソムリエ。企業・生産者団体・行政でのワークショップや講演多数。著書に『稲作SDGsをお米のプロに学ぶ』『大人のおむすび学習帳』(ともにキクロス出版)。


 たしかにお米、高いですよね。お米5キロ袋は2023年まで2千円台前半でしたが、2025年にはほぼ倍に。「農家が儲けすぎ」という人もいますが、「ちょっと待って、それは違う」と言いたくなります。

お米の値段が決まる仕組み

 日本人が1人当たり1カ月に食べるお米はおよそ4キロ。金額にすれば約3400円です(2025年10月の価格)。ご飯1杯に換算するとわずか55円(※1)。わたしたち消費者は長い間、「ご飯は主食の中でいちばん安い、コスパがいい」と感じてきました。その感覚からすると、現在の55円という価格は、「少し高いなぁ」と思う人もいるかもしれません。一方で、農家からは「この価格でやっと利益が出るようになった」という声も聞かれます。つくり手と食べ手、どちらにも無理のない価格が理想です。でもそれは、どうしたら成り立つのでしょうか?

 お米の値段は生産者が自由につけているわけではありません。収穫期に先立って、JAなどが農家に前払いする「概算金」という目安の価格が提示され、これが買い取りの基準になります。この概算金は、JA以外の民間流通ルート(消費者への直販や米卸、商社、量販店など)でも重要な価格指標になります(※2)。

 JAなどに買い取られたお米はその後、精米・袋詰め・保管・輸送などの費用が上乗せされます。こうして生産者価格の見込みと、加工・流通のコストの2つを土台に、小売の売価がつくられていきます。

 そして最終的なカギは、需給のバランスです。主食とはいえ、お米も市場原理の中にあります。消費が減退したり、豊作や増産などで収穫量が大きく増えたりすると、供給量が需要を上回り、価格は下がります。一方、不作で収穫量が少なかったり、消費者が急に買いだめに走ったりすると、需要が供給を上回るので、値上がりします。

 ここ数年は、肥料や農薬、農業機械の燃料などが高騰しました。加工・流通の現場も、エネルギー価格や人件費が値上がりしています。こうしたさまざまな費用がお米の価格を押し上げています。値上がりがそのまま農家の収入増になるわけではなく、また、米卸業者が必要以上に儲けているわけでもないのです。

「じゃあ、効率化をしてもっと増産すれば価格は下がるのでは?」

 そう考える人もいるかもしれません。半分正解ですが、半分違います。

※1 ご飯1杯を、炊き上がり150g=生米65gとした。参考までに、食パン1枚(6枚切り)は約30円、チルドうどん1玉は60~70円ほど(2025年10月時点の定価ベース)。

※2 概算金は、JAなどが収穫見込みや市場価格の動向をもとに算定する目安の価格。2025年産米は、概ね1俵(60kg)あたり2万5千~3万3千円前後とされ、前年より3~7割高い水準となっている。

田んぼは工場じゃない

 飲料やお菓子は、材料さえあれば、メーカーの計画通りの品質と量の製品をつくることができます。足りなくなったら、すぐ増産態勢を敷くこともできます。

 けれどもお米は農産物。そんなわけにはいきません。とりわけ稲作は広大な土地と水を必要とし、収穫は年に1回だけで、天候に大きく左右されます(※3)。

 もちろん、生産現場も手をこまねいているわけではありません。高温に強い品種改良や栽培技術の向上に加え、渇水や大雨に備えて田んぼの整備も進んでいます。さらに大型機械やドローンなどのスマート農業も広がり、効率化や省力化が図られています。それでも、稲作歴40年を超えるベテラン農家さんは笑います。「いやぁ、やっぱりお天道様にはかなわんねぇ」。自然への感謝と謙虚な姿勢に、思わず頭が下がります。

 そんな苦労をしても農家が米づくりを続けるのはなぜでしょうか? 自分が儲けるためだけではないのです。先祖から代々守ってきた田んぼのある風景は、里山の景観をつくり、田んぼの豊かな生きものたちを育みます。また農村地域は稲作をすることで互いに助け合い、共同体として存続してきました。多くの農家は、米づくりが地域と日本の食を支えていることに、誇りを持っています。

 近年、お米農家の高齢化と離農が激しく進み、担い手は減少の一途をたどっています。政府が増産に旗を振ったからといって、即増産とはなりません。お米づくりをやめ、耕作放棄地が増えた地域は、次第に住む人もいなくなり、田んぼの水源として村人が手入れしていた山も荒れて、クマやシカといった野生動物が増加する一因ともなっています。

 お米の値段はこうした自然環境や地域の営み、そして天候リスクなど、さまざまな背景を含んだ値段なのです。私たち消費者はお米を「高い、安い」といった価格の問題として受け止めるだけでいいでしょうか?

※3 日本の稲作は年一作が基本。フィリピンやバングラディシュ、インドネシアなどの熱帯~亜熱帯の地域では二期作や三期作が行なわれている。日本では石垣島などで二期作。最近になり、関東以西で「再生二期作」という技法が試みられている。

お米を支えるのは誰か

 これまで赤字続きだったお米農家は今、ようやく利益が出て、すこし安心しています。でも、消費者が想像するほど安心していません。むしろ、またコメ余りになるのでは…と大きな不安を抱えています。どれほど周りが「米づくりは大切」といっても、食べていけない仕事は続けられません。農家が持続できるように、適正に支える価格が必要です。

 現代ではほとんどの人が非農家になり、お米は「買うもの」になりました。でも、お米は単なる商品ではありません。生産者・流通業者と小売業者・消費者の関係性の中で成り立ちます。わたしたちが慣れ親しんでいるご飯を中心とした米食文化は、稲作の中で受け継がれ、発展してきました。また、正月などの年中行事、さまざまなお祭りや伝統芸能の多くは、豊作祈願や収穫への感謝を込めたものです。お米は単なる食材ではなく、そうした文化を支える食べ物なのです(※4)。

 このように考えると、高いか安いかではなく、もっと別の視点で見ていくことが大切なのではないでしょうか。お米の値段は、農業だけでなく食や地域など「お米をめぐるつながり」を、未来に向けて支えていくためのコストでもあります。わたしたち消費者は食べることで、その「つながり」に参加しているのです。

 目の前の一杯をなんとなく食べるのではなく、高いか安いかだけで決めるのでもなく、背景を知り、自分の考えで選んで食べる―そうした姿勢の人を、わたしは「よき食べ手」と呼んでいます。お米の家庭内消費は全体の6~7割。一人の一杯は小さくても、一人一人が「よき食べ手」として食べ続けたら、それこそが「お米をめぐるつながり」を支え、持続可能な価格を生む力になります。

 これを読んだあなたが、明日も明後日もお米を食べよう、と思ってくれたら嬉しいです。

※4 雨乞い踊りや虫送りの行事、稲作にまつわる能や民謡などが各地で受け継がれてきた。

うかたま81号の目次へ
農文協 編
特集: 漬けものエブリデー
たにりり ほか著/農文協編
お米はなぜ足りなくなったのか。米価はどのように決まるのか。農家は適正価格をどう考えているのか。米問題を歴史の視点でも振り返り、つくり手と食べ手のどちらにも無理のない出口を探る。農家とつながる方法も。