銭湯のお湯はどうやって沸かすの?|突撃!うかたま調査隊

「突撃!うかたま調査隊」は「うかたま」の新人編集部員が、気になることを調べるため各地にお邪魔させていただく、突撃訪問企画です。

文・写真=編集部

「うかたま」78号(2025年春号) 掲載

まだ寒い日もあるので、銭湯の広い湯船で芯まで温まりたい。
銭湯といえば煙突だけど根元はどこにつながっているんだろう。
そもそもお湯はどうやって沸かしているのかな。ガス?太陽光発電?え!今でも薪で沸かすの!?
湯船の下のでっかい焚き火を想像しながら、銭湯の裏側に潜入させてもらった。

訪ねたところ
鹿島湯
埼玉県さいたま市南区別所3-3-10
☎ 048-861-7007

 「銭湯の湯を沸かすのは、ボイラーです」。そう教えてくれたのは、さいたま市の「鹿島湯」3代目店主の坂下三浩さん。ボイラーは燃料を燃やして水槽内の水に熱を加え、お湯をつくりだす装置。鹿島湯のように燃料に今でも薪だけを使っている銭湯は珍しく、たいていが重油やガス、もしくは薪とのハイブリッドだ。地域によっては排ガス規制の影響もあり、薪釜の銭湯はかなり減っているそう。

鹿島湯の煙突は21m。高いほど上昇気流が強いので強力なボイラーになる。専門の掃除屋さんが年に1度掃除する

 見せてもらったボイラーには扉が2つ。薪をくべる扉と、大きな水槽の中を通る13本の「気筒」につながる扉だ。どちらも約8mの奥行きがあり、煙突につながっている。煙突の中では外気との温度差で上昇気流が起き、釜の中に空気を吸い込み、火力を強める。熱された空気が気筒を通って、水槽の水を温める仕組みだ。実際に火をおこしてもらうと、5分もたたずに薪が勢いよく燃えはじめた。お腹に響くごうごうという音、焚き火では味わえない迫力…。煙突のパワー、すごい!

 これだけ火力が強いと薪はすぐに燃え尽きるため、常に薪をくべ続けなければならないそう。休みなく働く苦労を聞くと、薪を燃やす拘束時間がなく、温度管理も自動でできるガス釜に切り替わっていった理由も納得だ。

薪釜は2021年に新調した3代目。温度差で鉄が膨張・収縮を繰り返すと傷みやすいので、定休日にも火を入れる
薪釜は2021年に新調した3代目。温度差で鉄が膨張・収縮を繰り返すと傷みやすいので、定休日にも火を入れる

 それでも鹿島湯で薪を使い続ける理由は、家屋の廃材や間伐材、製材所の端材などを有効活用でき、燃料代がかからないこと。そして「薪釜はやっぱりあったまる」というお客さんの声だ。薪釜のお湯だから温まるということは科学的には証明されていないそうだが、手間を惜しまず沸かしたお湯には、そんな力があるような気もしてくる。「大変だけど、ここを居場所といってくれるお客さんのために続けたい」と坂下さんはいう。

銭湯の建物は68年前に、宮大工だった初代が建てた。赤い富士はテレビ番組の企画でベルギー人の女性が書いたもの

 営業時間になったので早速お湯に浸からせてもらった。冷えた体にじんわり熱いお湯がしみる。裏で坂下さんとあの薪釜が一生懸命働いているから、こうして蛇口からお湯が出るのだと思うと、ボイラー室の方角に手を合わせたくなった。やさしく声をかけてくれる常連さんに、心まであったまって、ほくほくと帰路についたのだった。

鹿島湯 3代目 坂下三浩さん

調査報告!

煙突は、お湯を沸かす巨大なボイラーの一部だった。
ボイラー燃料が時代と共に変化して、薪釜の銭湯はどんどん減っている。
薪が積んである銭湯を見かけたら、迷わず立ち寄りたい。
裏側を知って、お湯からも気さくな常連さんからも人情を感じ、すっかり銭湯のとりこになった!

ここで一句。「薪風呂と 情のあつさに のぼせそう!」