「食べるんだから知っときたい」は、食べることに関連して「聞いたことはあるけれど、よくわかっていないこと」や「とても身近な問題なのに、ふだんは意識していないこと」について、専門家の方にわかりやすく解説していただく連載です。
「うかたま」83号(2026年夏号)掲載
Q. 大雨や地震などの災害が各地で頻繁に起こるので、備えなければと思い、自治体の資料などを見て、レトルト食品や缶詰などをそろえました。
非常時の食料対策として、これで十分でしょうか?
ふだんから備えておきたいモノや知恵について、改めて知りたいです。

答える人=進士 徹(しんし・とおる)
1956年、東京都生まれ。1989年に福島県鮫川村に移住。1995年に「あぶくまエヌエスネット」を設立し、自然体験活動や田舎暮らしを体験できる自然学校に取り組む。防災士としてセミナーの講師も務める。
非常時に大切な〝食べること〟
東日本大震災から15年、熊本地震から10年という節目の年を迎えています。大きな災害があったとき、人はまず災害情報や避難場所を探そうとします。しかし、実際に現場に立つと、もっと切実で身近な問題がすぐに立ち上がってきます。それが「食べること」です。電気が止まり、水が出ず、ガスも使えない。冷蔵庫の中のものは傷みはじめ、調理もままならない。普段は当たり前にできている〝食べる〟という行為が、災害時には一気に不安の中心になります。
災害時、最優先で確保すべきといわれているものがあります。それが「T=トイレ(排泄)」「K=キッチン(食事)」「B=ベッド(睡眠)」(注1)の3つです。どれも人が生きるための基本であり、一つ欠けたら心身のバランスは崩れてしまう。とくに〝食べる〟は、体力だけでなく気持ちを支える大切な行為です。
※1 「TKB」の確保は、その後の被災者の健康状態に大きくかかわる。過去の国内の震災では、多くの避難所でトイレ不足や不衛生なトイレ環境、雑魚寝などの状況が改善されず、災害関連死の要因ともなってきた。
〝郷土料理〟が非常食に?
非常食というと、特別なものを買いそろえるイメージが強いかもしれません。しかし、実際は「日常の食材を少し多めに持っておく」ことが、もっとも現実的で続けやすい備えになります。しまい込まず、ふだんの料理に使いながら補充する。いわゆる「ローリングストック」です。
では、どんな食材を備えておくとよいのか。今はアルファ化米など、技術を駆使した非常食が数多くありますが、ぜひ昔ながらの保存食にも注目してみてほしいです。私が住む福島県鮫川村には、「凍み餅」という郷土食があります。もち米とうるち米、オヤマボクチ(注2)を混ぜてついた餅を冬の屋外に干し、長期保存できるようにしたものです。東日本大震災の直後、食料品が手に入らなかったとき、近所の農家の女性たちが自家製の凍み餅を焼いたり煮たりして皆にふるまってくれました。それがとてもおいしくて、今ではうちでも毎年手づくりしています。
また、サトイモの茎の皮をむき乾燥させた「いもがら」も、震災時は避難所の炊き出しで活躍したと聞きます。直売所や道の駅で地元の保存食を探して備えるのもよいでしょう。
※2 キク科ヤマボクチ属の多年草。ヤマゴボウとも呼ばれる。葉の繊維が凍み餅やそばのつなぎとして使われる。
干して、育てて自分で〝非常食〟をつくる
また、自分で〝非常食〟をつくってしまうのも手です。たとえば、日持ちのする干し野菜やドライフルーツ。野菜や果物を食べやすい大きさに切って、表面の水気をふき、干しかごに並べて干すだけです。乗用車の車内の、フロントガラスの近くなら、日差しが入れば冬でも温室のようになり、短時間で干しあがります。
自分で野菜を育てていれば、食料品が手に入りにくいときの大きな助けになります。畑やプランターがなくても、スーパーのレジ袋があれば、主食となるジャガイモやサツマイモをベランダで自給できます。育てる以外にも、タンポポやヨモギ、シロツメクサなど、食べられる野草が近所でどこに生えているか、散歩ついでに探しておくのもいいですね。
空き缶に新聞紙、サラダ油…身近なものが役に立つ
食べものをそろえる以外に、水道・ガス・電気がない中での調理に慣れておくことも有効です。これも、特別な技術や道具は必要ありません。たとえば、私はふだんから、炊飯器は使わずに、土鍋とガスコンロでご飯を炊いています。習慣にしておけば、停電時でも落ち着いて食事を確保できます。慣れれば炊飯器よりも早く炊けますし、何よりおいしいので続けています。
自分で調理用の火を確保する方法も知っておくと、いざというときに役立ちます。これにも、身近なものが使えます。たとえば空き缶。半分に切ってサラダ油を注ぎ、重ねて巻いたティッシュを浸して芯にすれば、簡易コンロの完成です(下写真)。新聞紙は、水にぬらしてかたくしぼり棒状に成形すれば、薪のように火をつけて煮炊きに使えます。焼き網をのせ、空き缶に米と水を入れて蓋をして置けば20分でご飯が炊けます。

電気・ガス・水道が止まったと仮定し、自宅で一定期間生活する「ホームサバイバルトライアル」も、立派な防災訓練になります。「大規模な地震で電気・ガス・水道が使用できない」など、具体的なシナリオを決めて、防災用品や非常食を使ったりしながら生活してみるのです。最初は半日程度から始めるのがよいでしょう。大切なのは、ポジティブな気持ちで楽しんで行なうこと。すると、「さらにどんな備蓄が必要か」「防寒・暑さの対策は」といった課題も具体的に見えてくるはずです。
自然体験が非常時のヒントに
こうした防災のアイデアの背景には、私が主宰する福島県鮫川村の「ぽんた山元気楽校」での活動があります。山、野原、小川を自由に駆け回りながら子どもたちと一緒に自然の中で〝生きる力〟を育んでいます。
毎年、夏休みと冬休みの時期に、住む場所も年齢も異なる小学生の子どもたちが集まり、数日間の共同生活を行ないます。寝泊まりするのは昔ながらの古民家です。決まったプログラムはありません。子どもたちが自ら相談し、計画を立てながら、薪を割り、火をおこし、かまどでご飯を炊く。ニワトリやヤギの世話をする。のこぎりや廃材を使って、小川に橋をかける子もいます。私たち大人のスタッフは、それを手伝うだけ。坦々と〝昔ながらの生活〟をするだけなので一見地味ですが、そんな時間の中で、子どもたちは「食べることは生きることなんだ」と実感していきます。コンビニもなく山が大半を占めるこの土地で、身の回りのもので工夫する経験は、非常時の生活のあり方を考えるヒントになると思っています。
共同生活のなかでは、初めて顔を合わせる子ども同士が声を掛け合い、助け合って作業する場面も多く見られます。災害時には、家族や身近な人、ときには見知らぬ人とも協力し合う「共助(注3)」が重要といわれますが、参加する子どもたちは、自然にそれを身につけているようです。
災害はいつ起きるかわかりません。しかし、備えは今日から始められます。まずは土鍋でご飯を炊いてみる。身近なもので工夫してみる。そして、非常時であっても〝少し先の幸せ〟を思い描き、笑顔を絶やさないこと。それをみなさんにも大切にしてもらいたいと思います。
※3 災害時には「自助・共助・公助」が防災・減災のための基本原則とされている。自助は家庭で災害時を想定して備蓄や避難経路の確認などを行なうこと。共助はおもに地域の人々と協力して防災活動を行なうこと。公助は自治体などからの公的支援。
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