「食べるんだから知っときたい」は、食べることに関連して「聞いたことはあるけれど、よくわかっていないこと」や「とても身近な問題なのに、ふだんは意識していないこと」について、専門家の方にわかりやすく解説していただく連載です。
「うかたま」84号(2026年秋号)掲載
Q. 2026年春、ホルムズ海峡危機により、プラスチック製品の原料となるナフサが入手できなくなると大きな話題になりました。そんな中で、日々プラスチックごみを捨て続けていることにモヤモヤします。〝リデュース〟や〝リサイクル〟は、いまだに進んでいないのでしょうか?もっと個人でできることがあれば、やってみたいです。

答える人=服部 雄一郎(はっとり・ゆういちろう)
翻訳家・文筆家。1976年、神奈川県生まれ。元葉山町役場ごみ担当職員。現在は高知県に移住し、ゼロ・ウェイストを取り入れた暮らしを実践する。近著に『がんばらないコンポスト生活』(アノニマ・スタジオ)など。
問題は「使いすぎ」
ここ10年で、社会のプラスチック問題に対する意識はかなり向上してきました。マイクロプラスチックによる海洋汚染や生態系への影響も広く知られるようになり、EUを中心に規制強化も進んでいます。
「プラスチック=悪」というイメージを持つ人も多いかもしれませんが、そこは少し俯瞰して見たいところです。もちろん、プラスチックが現在引き起こしている諸問題は深刻であり、抜本的な対策が求められるところではありますが、それと同時に、プラスチックは私たちの暮らしや医療、食料の安定供給を支える大切な素材でもあります。
食の分野でいえば、プラスチックパッケージは食品の鮮度を保ち、食品ロスを減らしてくれる立役者でもあり、軽量かつ安価という利点も備えています。仮にすべてのプラスチックパッケージをガラスや金属に変えたら、値段は跳ね上がり、重量化によって輸送のCO2が増えてしまう可能性も指摘されます。「プラスチックが引き起こしている問題」もある一方で、「プラスチックのお陰で防げている問題」もあるのです。
とはいえ、「プラスチックは必要不可欠だから減らせない」ということではありません。問題は「使いすぎ」ですから、まずは過剰包装を避けたり、安易な使い捨てを減らすこと。そして、必要以上に依存しないこと。その上でできる限りリサイクルを促進することで、プラスチックの過剰な使用を大幅に削減できる余地があるはずです。
今年はホルムズ海峡危機によるナフサ(*1)の供給不安という思いがけない出来事によって、私たちの暮らしがどれほどプラスチックに依存しているかが改めて浮き彫りとなりました。今後は、これまでのような自然保護の観点に加えて、「資源リスク」や「経済安全保障」の観点からもさらにプラスチックの削減を進めていく必要があるでしょう。
※1 原油から精製された物質のうち、液状でもっとも軽い物質。ナフサの成分をさらに同じ種類ごとの炭化水素に分解し、とりだした物質が、エチレンやプロピレンと呼ばれ、プラスチックをはじめとするさまざまな石油化学製品の原料となる。
毎日の買い物でできること
個人レベルでできることもいろいろあります。マイバッグやマイボトルの持参は実践している人が多いと思いますが、さらに一歩踏み込んでみませんか?
たとえば、大手のコーヒーチェーンでは、店内利用時も使い捨てカップの使用が標準となっている店が目立ちますが、会計時に「マグカップやグラスでお願いします」と一言添えれば、大抵は簡単に応じてもらえます。
不要なおしぼりやストローもぜひきっぱりと断りましょう。「勇気を出して言うだけ」ですから、失うものは何もありません。
スーパーではほとんどの商品がパッケージ済みですが、肉屋、魚屋、パン屋などの個人商店ならマイ容器で買い物するチャンスが大きく広がり、地元経済の活性化にもつながります。数はまだ限られるものの、量り売りを前面に打ち出したゼロウェイストショップ(*2)も各地に誕生していますので、そうしたお店の存在もぜひもり立てていきたいところです。
スーパーでも、①「過剰包装の商品を買わない」、②「使い捨てタイプの商品をできるだけ選ばない」、さらに③「無駄な消費をしない=本当に必要なものだけを買う」ことでかなりごみを減らせます。ご意見箱にプラスチック削減を求める〝声〟を届けるのも有効です。すぐに実現に結びつかなくても、望ましい変化に向けたささやかな布石となります。
「出てしまったプラスチック」もできるだけリサイクルして循環させていきましょう。特にスーパー店頭の回収ボックスは、「発泡トレイ」「透明トレイ」などの細かい分別によって、通常の自治体の回収よりも質の高いリサイクルにつながる場合が多いので、これらを積極的に利用するのも手です。
通販の注文時には、備考欄に「気泡緩衝材は入れないでください。破損のクレームはつけません」と書き添えてみてください(ワレモノ以外)。多くの店が簡単に応じてくれ、無駄な緩衝材が劇的に減ります。
また、農家から直接「野菜セット」を届けてもらうのもおすすめです。おまかせ野菜の詰め合わせは農家にとってもメリットが大きく、新聞紙でくるんでそのままダンボールに入れるなど、かなりの簡易包装で届けてくれる場合も多々あります。何より、〝あたたかみ〟が感じられるのがいちばんの魅力です。
※2 商品を包装せず、量り売りで食品や日用品を販売する店。買い物の際、客は持参した容器に商品を入れてもらう。
プラスチックフリーを楽しむ
「これだけやっても、まだまだプラスチックだらけ…」と嘆息する人もいるかもしれません。その通り、個人の工夫には限界があって、これだけプラスチックが暮らしに深く組み込まれた現代、より大規模な政策の転換や技術革新なくしては、劇的な改善は望めません。
ただ、政策の転換にも追い風が必要です。大多数の市民が「プラスチック問題のことなど知りもしないし、不便を強いられたら文句を言う」という状況では、せっかくの政策転換の機運にもブレーキがかかってしまうでしょう。
たとえできることに限界があっても、プラスチック問題をなるべく深く理解し、必要な変化を歓迎し、柔軟に対応しようとする前向きな人が増えることは、社会の未来にとってきわめて重要です。完璧を目指して身動きが取れなくなるのではなく、「どうせ無理」と諦めるのでもない。そんな「責任ある中腰の姿勢」が、もしかしたら「今日どのくらいプラスチックを減らせたか?」以上に大切かもしれません。
一方、「プラスチックフリー」を意識することで、暮らしがよりクリエイティブで楽しいものに変わっていく部分もあります。
わが家は台所用スポンジも食品用ラップも使わない暮らしですが、それはシンプルに心地がよいから。へちまタワシで食器を洗い、ラップ代わりにお皿をかぶせて蓋をする。飲み終わったあとのコーヒーかすを捨てずに乾かせば、冷蔵庫や靴箱の消臭剤に早変わり。最後は庭のブルーベリーの周りにパラパラまいて、ささやかな土壌改良。そんな小さな工夫によって、〝ごみが減る〟以上に、不思議と日常がフレッシュになっていくのです。〝明るいプラスチックフリー〟を楽しみつつ、政策の転換を後押ししてくださる方が増えるといいなと思います。
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